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刃物あそび
  肥後守 今昔
     かつての商品テストのにぎわい
 


 肥後守の作り手が日経新聞の文化欄に登場!!

 日本経済新聞の2007年1月26日の文化欄に、登録商標としての「肥後守」製造の最後の職人、永尾カネ駒製作所永尾元佑(もとすけ)氏(1933年生まれ)が登場した。氏の肥後の守は東急ハンズはもちろん、主たる刃物店には必ずあり、中高年の実用から離れた需要に支えられている。記事には本人の言葉として「最近はモノ作りの大切さが見直されているのか、売れ行きも上向いている。現在は月間約1万本ほど作っている。もっとも今後どうなるのか分からないため弟子はとっていない。」とあり、家内工業で月間1万本には驚かされた。また、いいものを作っていたから自分一人が生き残ったなどとは言わず、「私が最後の職人になったのは職人の中で一番若かったからだ。」と謙虚に淡々と語っているところに好感を持った。日経新聞のおかげで、一時的に多くの引き合いがあったのではと想像した。【2007】


 せっかく新聞にも出たので、我が家の引き出しの中で風俗、民俗学の資料として眠っていた数本の「肥後守」、「肥後守もどき」を虫干しするとともに、併せてかつて「暮らしの手帖」が行った商品テストの概要を歴史として紹介したい。


@ 高級 登録 肥後隆義 鞘部は黒皮 座金は両面にあり
A 特級 登録 山平 肥後守 本手打品 鞘部はクロムメッキ 座金なし
B 登録 観龍肥後守 別打 鞘部はクロムメッキ 座金は両面にあり
C 本打 播州助左ヱ門 鞘部はクロムメッキ
座金は両面にあり
(刃部先端は投げナイフで折損)
D 登録 肥後ノ王様 割込 鞘部は黒皮 座金は両面にあり
E 登録 肥後守(ミニサイズ) 鞘部は真ちゅう 座金は両面にあり
チキリに吊り下げ用穴付き
F 登録 肥後守(ミニサイズ) 鞘部は真ちゅう 座金は両面にあり
チキリは無穴
 
 暮らしの手帖(暮らしの手帖社、昭和54年4月1日発行、第U世紀 第59号、1979年3・4月(隔月刊行))「220本の肥後守をテストする よく切れるいいナイフをつくってほしい」と題した商品テストの記事の要点を整理すると以下のとおりである。 
 
220本の内訳

銘柄は32種。同じ銘柄でも全く姿形が異なるものがあり、細分すると60種。うち、「肥後守」を名乗ったもの31本。
属性
価  格:価格幅は60円から450円で、平均189円。
硬  度:ヴィッカース硬度550HV未満は5本のみで、硬度テストはほとんど合格。
切れ味:Aよく切れる  12本(6%)、 Bまあまあ  38本、Cにぶい  49本、Dよく切れない  94本、E切れない  27本。A、B併せて、まあまあ合格といえるのは、220本中、わずか50本、23%。総じて安いものほど切れ味が悪い結果。
チキリ加工:チキリ(ストッパーの役割をする。「尾」とも。)部分が、打ち抜いたままで手当たり部が平になっていない製品や、これがないものもある。
ワッシャー:回転部の軸にワッシャー(座金)を使っていない製品が多い。
刃付け:安いもので、刃にはっきりした小刃(段刃ともいう、いわゆる二段刃)があ って、切れ味の悪いものが88本ある。
(管理者注)切れ味のテストは刃物の専門家2人、小学校の先生2人、出版社研究室の男女3人ずつの6人、全10人が実際に鉛筆とスギの角棒を削って判定したものとしている。経験則でわかるが、この手の刃物は出荷時の刃の研ぎ状態に差があり、また考え方として、例えば刃の鋭さを多少犠牲にして2段刃とし、刃こぼれしにくくするとともに、研ぎの頻度を少なくするという考え方もある。通常はよほどひどいナマクラ以外は、キッチリ研げば鉛筆程度のものは問題なくサクサク削れる。しかし出荷時の刃の研ぎの精度を考慮しては簡便な比較が難しくなるため、販売されている状態での切れ味として割り切ったものと思われる。したがって、本テストの切れ味の評価に関しては、あくまですぐ使いの状態を評価するものとなっていて、必ずしも刃物の質に由来する切れ味を公平・客観的に評価する内容にはなっていない。では、例えば研いで刃を付けやすいのか、長切れするのかとかいった硬度以外の特性の評価を数値的に測定する適切な方法があるのかとなると、これまた困難なことである。
評価

@よかったもの

 肥後守利光 360円、肥後守トップマン印割込 380円、秋水肥後守 200円

Aこれに次ぐもの

 白鷹肥後守 200円、肥後守 定(さだ) 200円、観龍肥後守 200円、肥後守トップマン印鍛造 250円、ハリマ肥後 300円、(ただし、刃渡り8センチもの)、宗近肥後 200円(ただし、刃渡り7センチで、黒塗りのサヤのもの)
(注)ただし書きは、同じ名前でも品質の異なるいろいろな種類のものが存在していたため、これらを区別する必要があって記述されているもの。

以上9種のうち、登録商標たる「肥後守」が7つを占めた。
肥後守」とはっきり名乗っているのは、大体がよい成績だったが、紛らわしい名前のものは、ダメなものが多かった。