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    ことばあそび  しゃれことば

  古典的な洒落言葉はリストアップすれば数百もあるといいます。従前から上方が優勢なようです。かつては日常生活,日常会話の中でごく普通に使われたといいますが,最近では突然○○は全く,うどん屋の釜で・・と言ったところで通じないのが普通になってしまいました。そこで,伝統文化の保存にも役立つよう比較的馴染みやすいものを並べてみました。単に並べると昆虫標本のような感じとなり,また,出来の善し悪しもありますが,なかなか楽しいものです。 

仮分類           しゃれことば(50音順 
あ行
赤子 赤子の行水で   (金)盥(たらい)で泣いている((金が)足らい(不
足)でないているというしゃれ)。
赤ん坊 赤ん坊の小便で  ややこしい(ややこ:赤子,しい:尿)
明店 明店の夷(えびす)様で にこにこしている(恵比須像が笑みをふくんでいるところから)
【明店】:あきだな。人の住んでいない家。あきや。
【注】一般的にも,「明店の恵比須」といえば,だれもいない所でひとり悦に入っている人を意味する。
明店 明店の雪隠(せっちん)で   尻が来ない(とばっちりが来ない)というしゃれ
春日 あの人は春日さんで (春の日は)暮れそうで暮れぬ(呉れそうで呉れぬ)  
【参考・ことわざ】春の日と親類の金持ちはくれそうでくれない。
太鼓 雨降りの太鼓で ドンならん
池之端 池之端のずいきで いけず(いけずな人(意地悪をしたりして,女たちを困らせる人)だという時に,花柳界で使われたしゃれ。)
いざり いざりの着物で  しり抜いている(尻抜いている(尻が抜けている)と知り抜いている(知り尽くしている)をかけたしゃれ)
【注】いざり(膝行・躄):足が不自由で、立っては歩けない人。
【注】 かつては障害者を言葉遊びのネタとすることが多く見られ,現在では好ましくないものであるが,過去の文化として掲載する。
いざり いざりのきんたまで  すり切れ(着物などを使い古して,すり切れている,財産を蕩尽したとのしゃれ)
いざり いざりのきんたまで すれている(地を引きずるので摺るというのに,悪ずれがしている意を掛ける。福島県で厚顔無恥の人を「いざりのきんたま」という。【鈴木】)
いざり いざりのちんぼで  すり切れている
うなぎ 石垣のうなぎで  手が出せぬ(手の出しようがないというしゃれ。)
植木屋 植木屋のせり分けで 
木(気)きが多い
(注)せり分け:競り売りして買い主に分けること
植木屋 植木屋の庭で     きが多い
兎のとんぼがいりで     耳が痛い
兎の糞で  続かぬ
うどん屋 うどん屋の鰹で   出し抜いてじゃ/出し抜かれた(先を越された)
うどん屋 うどん屋の釜で  ゆう(言う⇒湯)ばかり(湯を大阪方言で「ゆう」と発音するのに掛ける。)  
【類】「乞食のお粥で・・」とも
うどん屋 うどん屋の喧嘩で    傍(蕎麦)たまらん
うどん屋 うどん屋の湯で    見かけ倒しで役に立たない(そばの湯は飲めるが,うどんをゆでた湯は飲めないことから)
雲州 雲州の旦那で   金(種)がない人(温州蜜柑には種がないから。種を金にもじっている。)
江戸 江戸の土産で   海苔が来た(乗りが来た→調子づいてきた) 
狼のきんたまで  いらいてがない(いらうは関西方言でいじるの意)。こわうて(怖くて)触られん。あぶなくて手が出せない。さわり手がない。
鬼の反吐(へど)で   人だらけ,人ばかりいっぱいいるというしゃれ。
ふんどし 女にふんどしで  くいこむ一方や(赤字続き。予定以上の支出で赤字になる。)
か行
蚕のしょんべ(ん)で 桑しい(詳しい)
金槌 金槌の川流れで  頭が上がらぬ
行徳 行徳の盤台で   馬鹿(馬鹿貝)に擦れている 【類】深川の・・
【注】盤台:さかな屋などが用いる大きな長円形のたらい。
木曽 木曽の深山(みやま)で 木(気)が多い。
行徳 行徳の俎板で   馬鹿にすれている
【注】下総国行徳では馬鹿貝がよくとれ,この地のまな板(前記は盤台)は馬鹿貝で擦れていることから,馬鹿で人ずれしていることを言う。
去年の暦で   当てにならぬ
桐の木で 琴によい。殊に宜しいというしゃれ。
黒犬 黒犬のおいどで   尾も白うない(面白うない) 
【注】「おいど」は関西方面で「おしり」
芸者 芸者の羽織で   文(紋)無し
乞食 乞食の嫁入りで   振袖振らん(降りそうで降らない天気をいう) 
【類】「貧乏人の嫁入りで・・」とも
木挽き 木挽きの褌で   こまかい木(気)がつく
木挽き 木挽きの弁当で    木にかかる
こんにゃく こんにゃくの木登りで ふるえあがる
さ行
材木屋 材木屋で   木(気)が多い
材木屋 材木屋の泥棒で  きどっている
魚屋 魚屋のごみ箱で  アラ溜まって(改まって)ござる。今日に限ってやけに改まっているじゃないかというしゃれ。
薩摩焼 薩摩土瓶で  口が悪い(口が悪い人だという批評。薩摩焼の土瓶は口が欠けやすいことに掛けていう。)
猿の小便で    木(気)にかかる
正月の鯛で  にらんでるだけ(手が出せない)
白犬の尻毛で  おもしろい
小便 砂地に小便で たまらない/とんとたまらん (すぐに吸い込まれてしまうことから)
た行
狸のきんたまで   股一ぱい(また一ぱい,お代り)
樽屋 樽屋の前垂れで    わすれた(輪で摺れるのに忘れたを掛けたしゃれ)
カニ 月夜のカニで   とんと身(内容)がない  
【類】「寿司屋のアラで・・」とも
徳島 徳島の天気で   (徳島は阿波の国で,それが天気(日が照る)で) あわてる
土瓶 土瓶の口で  横から口を出す
鳥の糞で 木(気)の毒
な行
生木 生木に鉈で  木(気)の毒
うどん 煮すぎたうどんで  箸にも棒にもかからない
塗り箸 塗り箸にとろろで  一向にかからん(だまされない)
鼠の小便で   ずうずうしい(ちゅうちゅう尿)→チト苦しいなあ
は行
羅漢様 畑の羅漢さんで はたらかん。(働かん)
八月の槍で    盆槍(ぼんやり)
備前焼 備前徳利で    へこみがない(へこむ→赤字が出る)
稲荷 貧乏稲荷で   鳥居(取り柄)がない。関東方言では同音。
【類】「焼けた稲荷さんで・・」とも
材木屋 貧乏な材木屋で   気がない
魚屋 貧乏な肴屋で      小ぶりじゃ
染物屋 貧乏な染物屋で     紺がない(根(根気)がないというしゃれ)
深川 深川の盤台で    ばかにすれている。悪ずれのしたひと。馬鹿貝をむくので板が摺れているというのに掛けたしゃれ。 【類】行徳の・・
ふんどし 褌の川流れで  くいけにかかったら動かん(食い始めたら動かないというしゃれ。杭木に掛ける。)
大工 下手な大工で    鑿潰し(身代を飲みつぶしてしまったという時のしゃれ)
便所 便所の火事で  やけくそだ
坊主 坊主(坊様)の頭で  結う事ない(言うに掛ける。何一つ非の打ちようがないという時のしゃれ)
坊主 坊主のはりつけで  たこうつく(蛸突く→高くつく(値が高い))
布袋 布袋のちんぽで もとが知れん(出自,出所,原因,元値がわからぬ)
ま行
松の木 曲がった松の木で  はしらにゃならん(走にゃならん。柱にゃならんに掛ける。)
娘の新鉢で 痛み入る。恐縮ですというときのしゃれ
汁粉 餅のない汁粉  餡汁(案じる)ばかり
や行
提灯 屋台の提灯で  ぶらぶらしている。働かない。
谷中 谷中の不作で    しょうが(生姜)ない
【注】谷中(東京都台東区,上野台地北西端の地名)は生姜の栽培が盛んだった。今でも葉つきショウガは谷中ショウガとも呼ばれる。
破れ車で     輪がわるい(我(自分)が悪い。自分の身から出た錆であるということ。)
障子  破れ障子で    骨ばかり
吊し柿 大和の吊し柿で    蔕(へた,下手)(なり)に固まっている(下手のまま固定して,進歩する見込みがないこと。)
幽霊 幽霊のお手討ちで   死骸(し甲斐)がない
幽霊 夜明けの幽霊で  いつの間にやら立ち消えや
ら行
淋病 淋病病みのションベ(ン)で   出そうで出ん
六匹の鼠で    むちゅう→口に出すにはちょっとねえ・・・
わ行
悪い鋸で    切ってもきれん(切っても切れない深い仲であるというしゃれ)  
【類】「目のない鋸で・・」とも